
今や世間は12月・・・「森本・・・今頃10月のイベントのブログを書いてくるなんて・・・さては仕事が追いついていないな?」という皆様のお声が聞こえてきそうですが、10月のワインイベントをご報告いたします。お察しの通り、日々の仕事に追われ、ついには追い抜かれた森本です。
去る10月13日、日本料理「風花」におきまして、世界が羨望するブルゴーニュの至宝 Domaine de la Romanee-ContiとDomaine Prieure Rochの正規輸入元として日本のファインワインマーケットに唯一無二のポートフォリオを展開しているFwinesさんよりGuillaume Laborde (ギヨーム・ラボルド)氏をお迎えし、Fwines取り扱いの両ドメーヌを含めた珠玉のラインナップとともに、ワインの美学、テロワールについて余すことなく語っていただくファインワインディナーを開催いたしました。そんなディナーの舞台となったのは、日本料理「風花」の鮨カウンター。8名様限定でのご案内となりました。この会が決まってからというもの、鮨料理長の小川と打ち合わせ、試作を何度も重ねました。通常こういったワインディナーの際には、当日お客様に提供するワインを職人にテイスティングしてもらって、料理を造っていくことが多いのですが、今回のワインに関しては事前にテイスティングしてもらうことができず、「恐らくこんな香りがあります」、「ワインのテクスチャーの核になるのはきめの細かさです」といったような想像の範疇でメニューを造っていきましたので、いつも以上に試行錯誤を繰り広げ、メニュー作成に長い期間を要しました。

そんな緊張感の漂うイベントのスタートは、2018 Champagne Henriot “L’Inattendue” Chardonnay Grand Cru。そこに烏賊の握りと真鯛の瞬間燻製をつまみとして合わせました。シャンパーニュ・アンリオは17世紀から続く老舗メゾンです。現当主アリス・テティエンヌ氏が手掛ける《リナタンデュ》(=予期せぬ)は、コート・デ・ブランのグラン・クリュのシャルドネのみを使用し、約5年間の瓶での熟成を経てリリースされました。非常にきめの細かい泡立ちで、白系果実や柑橘類の味わいにほんのりとスモーキーなフレーバーが調和し、火打ち石やチョークのようなミネラル感があります。このスモーキーな要素が瞬間燻製にした真鯛の薫香とよくなじみ、柑橘のフレーバーが烏賊の握りに添えた柚子の香りと同調するような組み合わせとなりました。瞬間燻製マシンはプレゼンテーションとしてもすごく魅力的なのですが、燻製にかけたばかりのネタと、燻製をかけて少しおいたネタでは後者の方が上品に薫香が広がることから、開催前に燻製をかけました。 (ベストなタイミングを導き出すまで、直前・1時間前・2時間前・3時間前・・・というように小川が研究を重ねました。緻密な仕事ですよね)
2つ目のワインは、2018 Chablis Grand Cru “Les Clos”, Domaine Christian Moreau Père et Filsを提供しました。そこに合わせたのは、金目鯛の昆布〆 (握り)と炙り北寄貝のガリ酢クリームソース (つまみ) です。モロー家は1814年創業のシャブリの歴史そのものを体現するような名門です。レ・クロの丘は粘土石灰質のキンメリジャンの層を持ち、ワインは骨太の酸と塩味、樽発酵による厚みを兼ね備えたスケールの大きさを感じることができます。昆布締めした金目鯛のねっとりとしたテクスチャーと厚みのあるワインのテクスチャーが心地よい組み合わせです。ガリ酢のクリームソース・・・興味を引くメニューですよね?こんなに攻めたお品書きをしたためた割に、小川が最初に作ったガリ酢クリームはただのクリームで、一緒にテイスティングした富満とも顔を見合わせ「ガリはどこに行った?」となりまして。ガリ酢を足し、ガリ感を出すために細かく刻んだガリをクリームに加えて仕上げてもらいました。樽熟成由来のなめらかな口当たりとクリームソースが心地よく、ワインが持っているレモンコンフィのような酸とガリ酢の酸が相乗効果で上品な味わいを造るペアリングになりました。ガリ酢のクリームソースだけでも樽熟成したワインとの良いアテになります。シャルドネだけでなく、ヴィオニエなども相性が良さそうです。
3つ目のワインは、2022 Ladoix “Le Cloud Blanc”, Domaine Prieuré Roch。そこに炙り赤座海老の握りとセコカニの外子餡かけ(つまみ)を合わせました。DRC共同経営者、故アンリ・フレデリック・ロック氏が1988年に創立したドメーヌ。アンリ氏が亡くなった2018年以降はヤニック・シャン氏がこのドメーヌを担っています。「ビオディナミ」。人為的な介入を極力避ける「生きたワイン造り」を信条としています。このル・クル・ブランは、0.5 haの区画から生まれる希少なワインで、熟したマイヤーレモンやゴールデンデリシャスの果実と焼きたてのパンを想起させるようなイースティーな香りが調和しています。口中に含むと澱由来のうまみがじわじわと広がり、余韻にコリアンダーシードや白胡椒の心地よい苦味が引き締める、ミディアムボディのワインです。やや酸化した造りと強いうまみが口中に広がるのも特徴です。個人的には魚卵やカニミソは好きなのですが、いざワインと合わせると一気に生臭さ、魚臭さが出てくるので、何ともワイン泣かせな食材なのですよね。そんなカニの外子になんの嫌みもなく、もはやワインが出汁の役割を果たすようなペアリングが出来るのがル・クル・ブランだったと思います。
さぁ、ここからは赤ワインの登場です。鮨と赤ワインの組み合わせは、犬猿の仲のイメージをもつ方も多いのでは。今回のイベントでは、そんなイメージを払拭するような組み合わせをお届けできたと考えています。4つ目のワインは、2021 Nuits-Saint-Georges 1er Cru “Clos des Corvées Vieilles Vignes”, Domaine Prieuré Roch。こちらに合わせましたのが、酢〆の炙り秋刀魚棒寿司、鰤藁焼き(つまみ、ディジョンマスタードとピノ・ノワール塩の2種で提供)そして松茸の土瓶蒸しです。ドメーヌの単独所有畑のクロ・デ・コルヴェは、ロックの象徴とも言える区画です。樹齢60年以上のヴィエイユ・ヴィーニュが生むワインは、梅や紫蘇、そして“ロック香”と呼ばれる出汁のようなうまみ・フレーバーを持っています。ワイン自体の梅や紫蘇の要素に合わせて、酢〆の秋刀魚棒寿司大葉を加えることで、よりワインのフレーバーに寄せて造りました。藁焼きの鰤の脂はとても上品で、そこにブルゴーニュという土地を組み合わせ、日本食でよく使う辛子ではなく、ディジョンマスタードと、ブルゴーニュのピノ・ノワールで作った塩を合わせました。そしてロック香に合わせた“松茸の土の香気”。それぞれがクロ・デ・コルヴェの酸・果実・うまみの三要素と呼応するようなペアリングとなりました。

5種類目、6種類目のワインは、同時に提供して、サイドバイサイドでDomaine de la Romanée-Contiの世界観をみていただきました。2019 Domaine de la Romanée-Conti Échézeaux Grand Cru & 2019 Domaine de la Romanée-Conti Richebourg。エシェゾーは若樹由来の繊細で妖艶な果実香、赤系果実とシルクのようななめらかな口当たりを、リシュブールは黒果実とスパイスの長い余韻・そして力強く肉感的な構造を備えています。この偉大なワインに合わせた鮨・つまみは何か。気になる方はぜひ、日本料理・風花にお越しいただき、直接鮨職人に、もしくはソムリエチームのメンバーに聞いてみてください。(勿体ぶってすみません)ギヨームさんはフランスの方ですが、日本語がとても上手で、非常に分かりやすく、そして笑いを交えてファインワインを紹介してくださる唯一無二のナビゲーターです。2026年も必ずコンラッド東京でイベントを開催してほしいと堅く約束を取り付けました。

※カウンターの裏側でDRCを大切に、大切に注ぐソムリエの富満と河合(笑)
2025年もたくさんのワインイベントを開催することができました。これもひとえに日頃からコンラッド東京 ソムリエチームの活動を応援してくださり、サポートしてくださるお客様のおかげです。2026年も皆様に驚きと新しい体験を提供できるようなイベントをたくさん企画していきたいと思っておりますので、引き続きコンラッド東京 ソムリエチームの活動を温かく見守っていただけますとうれしいです。だいぶフライングですが、皆様すてきなクリスマスをお過ごしください 。そして良いお年をお迎えください。
エグゼクティヴ ソムリエ 森本美雪
01 Dec, 2025